前回記事の続きになります。
テーマは、映画『JOKER』の魅力を掘り下げるというもの。
ちなみに、前回迄の記事は以下。
本連載では、5つのテーマに分けて『JOKER』を分析しています。
そのテーマとは、以下。
(1)未見の方に向けた、基本設定の紹介
(2)物語の解釈1。現実世界としての解釈
(3)物語の解釈2。夢想世界としての解釈
(4)「安倍晋三氏銃撃事件」との関係
(5)作品に罪を問うべきか否か
前回記事迄で、(1)~(3)については述べました。
今回は、(4)について語って参りましょう。「名作映画の話から、令和を揺るがす事件の話に至る」という、超絶展開になるとは…。
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(4)「安倍晋三氏銃撃事件」との関係
2022年7月8日の昼頃、奈良県で発生した「安倍晋三氏への銃撃事件」。
犯人の「山上徹也」容疑者は、現行犯で逮捕されました。しかし、残念ながら安倍氏は死亡。
この事件。恐らくは「2022年の10大ニュース」のひとつとして、現段階で確定済みと思われます。それくらいの大事件。
で、この山上容疑者。
「今回の犯行と、映画『JOKER』との関係について、事前に語っていた」と報じられています。
www.news-postseven.com(2022/7/19)
安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者のものと見られるTwitterアカウントが7月19日に閉鎖された。
同アカウントは2019年10月に開設されており、〈オレが憎むのは統一教会だけだ。結果として安倍政権に何があってもオレの知った事ではない。〉などの投稿から、犯行の動機の解明につながる記述も見受けられる。
山上容疑者は、NEWSポストセブンが2019年10月に公開した作家・橘玲氏の寄稿〈映画『ジョーカー』が描いた「下級国民の反乱」〉をリツイートしており、この記事について複数の投稿があることがわかった。
(https://www.news-postseven.com/archives/20220719_1775108.html?DETAILより。改行・強調等は筆者によるもの)
ちなみに、山上容疑者がRTした記事は、以下。
2019年の記事になります。
www.news-postseven.com(2019/10/19)
映画『JOKER』の公開は、2019年。
安倍氏銃撃事件は、2022年。
両者には、直接的関係性は皆無です。しかし、「映画の基本設定」と「山上容疑者の背景」には、共通点が多い様に見受けられます。
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現在までに、警察から発表されている情報を見てみると…
安倍氏銃撃事件が起きた経緯は、以下の様なものと思われます。
◆山上容疑者は、幼い頃に父親を失っており、母親や祖父に育てられた。
◆その母親が、新興宗教団体「統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)」にハマり、家庭が破壊された。
◆統一教会は、霊的な脅し文句(先祖の霊が苦しむ等)を用いて、異様に高価な物品を買わせる「霊感商法」で知られた団体。多数のトラブルが報告され、数々の裁判でも負けており、弁護士団体等が警鐘を鳴らす「カルト宗教」として有名である。
◆この統一教会に、山上容疑者の母親が1億円クラスの寄付をして、山上容疑者の家庭&経済事情は大打撃を受けた。そのことが、山上容疑者の人格形成にも影響を与えた可能性は高い。
◆その後、山上容疑者は成長し、社会人になった。しかし、なかなか思う様に生活できない。
◆FPや宅建等、ちゃんとした資格を取得してもみたが、上手に活かせず。非正規雇用の仕事を転々とした。
◆そして、2022年5月。最後の仕事を辞める。辞職後は、安倍氏襲撃のみを考えて活動していた。
◆山上容疑者は、自分の家庭を破壊に導いた統一教会に対し、並々ならぬ恨みを持っていた。
◆過去には、統一教会の教祖を暗殺しようと画策したが、ガードが固かった為断念。そこで、別のターゲットとして選んだのが、安倍氏であった。
◆安倍氏は、統一教会との親交がある。外部から見れば、広告塔として機能している。統一教会の関係者と言って差し支えない。
◆上記の様な考えがあり、たまたま安倍氏が奈良県に選挙応援演説に来て、しかもガードが甘かった。故に、かねてから準備していた手製の銃で、安倍氏を銃撃した。
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今後、山上容疑者に対する取り調べや、裁判が進んでいくことでしょう。その流れで、また新たな事実が浮上するのかもしれません。
しかし、現段階では、上記の様な事件背景が見えてきます。「山上容疑者の言っていることは、真っ赤な嘘だ」という話は、まだ出ていない。それ故、「現在分かっている情報が、概ね真実である」とします。
そうすると、映画『JOKER』の主人公・アーサーが置かれた状況と、山上容疑者の状況には類似点が見えてきます。
◆所謂「親ガチャ」に失敗。母親に問題がある。
◆社会的地位が低く、雇用や収入が不安定。職場での立場が弱い。
◆孤独である。
◆生活を立て直そうと努力するも、なかなか上手くいかない。
◆現状に絶望し、有名人を殺害する。が、その有名人は自分に直接的被害をもたらしたワケではない。ただ、「自分に危害を加えた側の人間のひとり」という認識は可能である。
また、映画『JOKER』の舞台「ゴッサム・シティ」の状況と、現代の日本の状況にも、類似点が見えてきます。
◆政治家が頼りにならず、綺麗事ばかり言っている。
◆貧富の差が激しい。所謂「上級国民」は贅沢な暮らしをしているが、そうでない者には非常に冷たい。
◆「不安定な雇用や、低賃金で働かざるを得ない」という者が多い。
◆税金や社会保険料等が高く、弱い立場の者が追い込まれている。
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映画『JOKER』の魅力は、「フィクション作品でありながら、現実世界の暗部を炙り出したとされる、徹底したリアルさ」です。
そのリアルさが、あまりにも現実世界の問題と酷似していた為に、共感を持つ者が続出した。その中に山上容疑者がいた。恐らく、こういう構図なのではないか?…と。
皮肉にも、映画『JOKER』の名作っぷりを証明してしまった…という結果になっていますね。
ここで、ひとつ気になることが。
今回の事件を理由にして、映画『JOKER』は”上映禁止の問題作”となるのか?
この話については、次回記事にて語ることと致しましょう。長くなるので、本日はここまでとさせてください。
-----------------(記事了)-----------------
(※誤字訂正)
×「今回の犯行と、映画『JOKER』との関係について、警察に語っていた」
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〇「今回の犯行と、映画『JOKER』との関係について、事前に語っていた」
失礼致しました。お詫びいたします。