<この記事は、2022年5月15日20時頃迄の各種情報を基にして、執筆しております>
前回記事の続きになります。
テーマは、「ウクライナ情勢における、情報戦」について。
前回記事では、「ロシアが、無謀ともいえる侵攻を始めた理由」について、裏事情を掘り下げてみました。
今回記事では、「ロシア国内で進行中の、クーデター計画」の話について、情報戦の側面から掘り下げることに致しましょう。
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独裁者プーチンの暴走を止める為、ロシア国内でクーデター(武装蜂起による政権転覆)が計画・進行中である。
しかも、クーデター計画は相当進んだ状況であり、もう止められそうにない。
先日、こういうニュースが報じられました。
mainichi.jp(2022/5/15)
www.yomiuri.co.jp(2022/5/16)
ウクライナ国防省の諜報(ちょうほう)部門トップのブダノフ准将は14日放映の英スカイニュースのインタビューで、ロシアのプーチン大統領に対する「クーデター計画」が進行しているとの見方を示した。
ウクライナに侵攻したロシア軍の劣勢が引き金になっていると分析し、「計画は止められない」状況にあると述べた。
(https://mainichi.jp/articles/20220515/k00/00m/030/014000c?fm=lineより。改行等は筆者によるもの)
このニュースを見聞きして、筆者はこう思いました。
「このニュースは、ロシアへの攻撃だ」と。
これは、恐らく意図的に流した情報(インテンショナルリーク)です。
弾丸も砲弾も使っていませんが、立派な攻撃です。情報を発した側は、ロシアにダメージを与えようとしているのでしょう。
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なぜ、このニュースが「ロシアへの攻撃」と言えるのか?
これには、ちゃんとした根拠があります。
先ず挙げられるのは、「今のロシアは、プーチン氏による独裁政権下である」という点ですね。
独裁政権にはよくあることですが、統治の主な手段が「言論統制」「恐怖政治」「監視・密告制度」等々になり易い。暴力と権力で国民を締め上げ、力でねじ伏せる体制になり易いのです。そうしなければ、反対意見を排除する独裁制は機能しない。
今のロシアは、まさにこの状態。
他方、独裁政権の弱点として、「疑心暗鬼を生じやすい」という要素もありがち。
独裁政権は、相手を権力・暴力で従わせることを至上とします。その為には、相手が本格的に動き出す前に、政権側が行動しなければなりません。その為、「先制攻撃しなければ、自分がやられてしまう」という思考回路に陥るのです。
この思考回路は、行き過ぎると「周囲全部が敵に見える」という精神状態を招きます。
何時・誰が・何処で反旗を翻すか、全く分からない。
独裁者は、常に先制攻撃を狙っている。であれば、反体制側も同じことを考えている筈だ。
遠くから狙撃される。毒を盛られる。寝込みを襲われる。暗殺方法は沢山あって、常に不安で落ち着かない。
独裁者は、こういうことをよく考えます。なぜなら、「自分もそうやって敵を排除してきたから」です。ブーメランで跳ね返ってくることを、常に恐れるのです。
こういう思考回路に陥ると、些細なことで「お前は敵だ!」と思い込み、粛清に走ります。
例えそれが「独裁者の勘違い」であったとしても、常に命の危険を感じてビクビクしている独裁者には関係ない話。敵の疑いがある者は、先制攻撃で次々排除していくのです。
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周囲が全て敵に見える。
こういう精神状況に至った独裁者に対し、「あなたの国で、クーデター計画が進行中ですよ」と教えれば、一体どうなるか?
恐らく、独裁者の猜疑心は激増し、ちょっとでも怪しい者は次々と排除していくでしょう。それが濡れ衣かどうかは、独裁者にとってはどうでもいいこと。とにかく怪しい奴は、全員消すのみ。
こういう流れになれば、独裁者が率いる組織は、深刻な人材難に陥ります。有能・無能に関係なく、「怪しい」というだけで排除されていれば、必ずそうなります。
今回のロシアに関しても、上記の流れになり易いといえます。
特に「クーデターをやらかしそうな奴」となれば、「自分で考え、積極的に行動にする能力を持つ者」が目を付けられ易い。つまり、「有能な人物を、独裁者の手で排除させることが可能」となります。
「ロシア国内で、クーデター計画が進行中」という情報を流しているのは、ウクライナ国防省の諜報部門トップ・ブダノフ准将です。
そして、ブダノフ准将は「主張の根拠」を示していない。独裁者の猜疑心を刺激するのには、かなり有効な姿勢といえるでしょう。
こうやって、敵を内部から崩していく。銃も戦車も使っていませんが、立派な攻撃の一種といえますね。
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今回の戦乱に関して、情報戦ではウクライナ側が相当に上手。
ロシアは後手後手で、ゴリ押しが目立ちます。
情報戦に勝ちたければ、相手を説得する材料を揃え、納得して貰うことが重要。そして、自らの間違いを認め、謝罪することも必要です。
今のロシア政府には、どちらの要素も大きく欠けている。これでは情報戦に勝てません。
独裁者は、傲慢になりがちです。
傲慢の行く末は、概ね「協力者の欠如」と「任務遂行能力の減衰」に塗れた状況である。これは、歴史を見れば明らかです。ロシアも例外ではなさそう。
歴史は繰り返す…か。
--------------(記事了)--------------