前回記事の続きです。
テーマは、「東京五輪のボランティアを、インパール作戦に重ねてしまうのは何故か?」
先日から騒ぎになっている、東京五輪組織委員会の長・森喜朗氏の問題発言。
その余波は、森氏個人だけでなく、組織委員会やIOC、果ては国会にまで波及。国内のネットやメディアは勿論、世界中から疑問の声が出ています。
最早、森氏の個人的資質の問題で終わらず、「組織の自浄能力・問題解決能力が無い」として、運営全体の問題に発展している感アリ。
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不安な面は沢山ありますが、前回記事から触れているのは「ボランティア」についての話です。
東京五輪は、10万人規模のボランティアで支えられる形になっています。このボランティアの扱いがおかしい…と、以前から話題になっていました。
今回の炎上騒動で、ボランティアを辞退する方も出ています。百人単位で。
この機会にもう一度、「五輪ボランティア」の意義や経緯について、振り返ってみましょう。
それと並行して、旧日本軍の支離滅裂さが露呈した「インパール作戦」にも触れていきます。
第二次世界大戦中の話ですから、もう80年近く昔の話になります。が、未だに「こういう光景、見たことがある」と言ってしまう要素アリ。
人は、80年経っても、進歩しきれていない面が残っている。そうとしか思えないのです。
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先ずは、インパール作戦について、簡単に触れていきます。
この作戦が実行されたのは、1944年。
インドのインパールという町に、イギリス軍の拠点がありました。
その拠点を制圧する為に、旧日本軍がビルマ(現在のミャンマー)から出発して、攻撃を仕掛ける。これがインパール作戦の概要です。
しかし、この作戦。実施前から「無謀過ぎる」という反対意見が出ていました。
補給を考えず、険しい地形や悪天候などの条件を無視して、成功ありきで提出された作戦。失敗する確率の方が、遥かに高い。
しかし、「気合があれば成功する」と軍上層部が言い放ち、インパール作戦は実施されてしまいます。
作戦の結果は、予想通りの大失敗。
食糧どころか武器弾薬の補給までが滞り、険しい地形と悪天候で進軍が止まり、飢餓と疫病で兵士が次々と倒れ、その最中でも戦闘があり…と、事前に予想された事態が次々に発生。
資料によって数はまちまちですが、日本側には、少なくとも4~5万人の死者が出ました。
冷静に考えれば、問題が山積みの作戦。
その状況下でも、「根性で何とかしろ」という上層部。具体的な方策もなく強行すれば、失敗するのは当たり前。
なお、上層部の責任は有耶無耶で終わっています。今の日本も、この時とそっくり。
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一方、東京五輪のボランティアは、どんな状況なのか?
この件については、3年以上前から、問題視する記事が出ています。
一言で言えば、酷い。
この状況を「ブラックボランティア」と評する方もチラホラ。
gendai.ismedia.jp(2018/8/4)
上記記事の後で、改善された点もありますが…。
五輪ボランティアに対して示された条件で、「これはちょっと酷い」という例を挙げると、以下の様なものが。
◆給料は出ない。
◆宿泊費・交通費・その他の費用は、基本的に自腹。補助が出るのは、ユニフォーム、大会開催中の飲食物、若干額のプリペイドカード、ボランティア保険程度。
◆「1日8時間程度の活動で、10日以上動ける」「事前研修に参加できる」等、結構な拘束期間がある。
上記の条件を見て、「ボランティアなんて、そんなもの」と考える方もいるでしょうが、それは恐らく災害ボランティアのことを仰っているのでしょう。
災害ボランティアの場合、相手は被災者。困っている人を助ける為に、無償奉仕するという図式は、理解できます。
しかし、五輪はスポンサー企業を多数抱える商業イベントです。単なるスポーツ大会ではない。莫大な広告費が運営に入り、上層部は長者番付の常連になれるレベル。
そこに無償ボランティア…となれば、それは「超低賃金労働者」と同じ。運営が金をガメているのに、現場はボランティア。ちょっとおかしい。
それに加え、運営が「医療従事者もボランティアで、無報酬」と言っている時期がありました。
さすがにそれはマズイと思ったのか、2020年12月に方針転換するとの発表がありましたが、医療従事者までタダ働きさせようというのは…絶句です。
なお、この医療ボランティア。元々は熱中症対策を中心に考えられていたボランティアです。コロナの話は考慮に入っていません。
コロナ禍で、ただでさえ医療が混乱している現状。これをボランティアで何とかしようとする。筆者には、その経緯が理解できない。
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そのボランティアにかける運営の言葉が、「二度とできない経験」「就職活動で有利になる」等の曖昧なもの。
条件が厳しく、報酬も無く、精神論だけで募集するというのは、かなり苦しい。人が集まらない恐れもありました。その為、学校に働きかけて、「ボランティアに参加すれば、単位として認める」という話まで出る始末。
商業的には大成功している運営が、現場には対価を支払わない。
対価を与えず、精神論で何とかしようとする。
冷静な計算を無視して、現場に精神論を強要する。現場の状況よりも、組織上層部のしがらみを優先させる。
こういう姿をして、「インパール」と揶揄されるのです。
ちなみに、インパール作戦をゴリ押した張本人「牟田口廉也(むたぐち・れんや)」中将は、作戦で死んでいません。戦後の日本で、責任転嫁の演説をばら撒いていたとのこと。
上層部連中は、日本から芸者を呼んで、飲みまくっていたそうです。地獄の現場でバタバタ死んでいく兵士の存在を、よく知った上での宴会とは…。
bunshun.jp(2020/8/15)
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2021年の日本。
新型コロナで本業が危うくなり、副業しないとやっていけない人は、1年前よりも増えました。
その流れで、ボランティアに従事する余裕も減る。これは間違いない。
そこへきて、森喜朗氏を発端とする、昨今の炎上騒動。
自民党の二階幹事長は、森氏を擁護し、ボランティアの気分を逆撫でしかねない発言で追加燃料投下。
ギリギリのラインで、何とか頑張ろうとするボランティアの方々は、あの会見を見てどう思うのだろう。
真夏に行われる五輪。熱中症対策ですら不十分なのに、コロナの対応などできるはずもない。
コンパクト五輪だったはずなのに、コロナ騒動が表面化する前から予算が青天井。
そもそも、色々おかしいことだらけだった。「国威発揚」みたいな感じで進んできましたが、新型コロナで一気にひっくり返り、今に至ります。
この辺りも、インパール作戦に通じるモノがある。80年経っても、変わらなかったのか…。
--------------(記事了)--------------