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【池袋暴走事件の話】「疑わしきは、被告人の利益に」ではあるが…

池袋暴走事件。

2019年4月に起きた、強烈に痛ましい事件。

覚えていらっしゃる方が大半でしょう。

良く晴れた春の日、一台の暴走車が街中に出現。何の罪もない母子を始め、多数の死傷者が出てしまいました。

 

事件から一年以上が経過した2020年秋。やっと裁判が始まりました。

が、その裁判で、暴走事件を起こした「飯塚幸三」被告は…無罪を主張

元から評判が最悪だった被告が、更に追加燃料を投下した形になって、全方位からフルボッコの大炎上騒動に。

bunshun.jp(2020/10/12)

池袋で2019年、近くの主婦、松永真菜さん(当時31歳)と長女莉子ちゃん(同3歳)が乗用車にはねられ、死亡した。

 

この事故で、自動車運転処罰法違反の過失致死傷罪に問われているのは、旧通商産業省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(89)だ。

被告は19年4月19日、豊島区の道路を時速60キロで走行していたが、車線変更する際にブレーキペダルを踏もうとして誤ってアクセルペダルを踏み続け、時速96キロで交差点に進入。青信号の横断歩道を自転車で渡っていた松永さん母子をはねて死亡させ、他にも通行人ら9人を負傷させたとして起訴されている。

 

8日の初公判の法廷に車椅子で入廷した飯塚被告は黒のスーツ姿。弁護人に助けられて証言台前で立ち上がり、「(遺族の)ご心痛を思うと言葉がございません。心からお詫び申し上げます」と深く頭を下げた。

 

しかし、認否に移ると、「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車の異常で暴走した」と無罪主張した。

https://bunshun.jp/articles/-/40837より。改行は筆者によるもの)

 

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そして先日。第三回公判が開かれました。

飯塚被告の主張は変わらず、「原因は車の故障で、自分は悪くない」

そこに加えて、「ブレーキを目視確認して、ちゃんと踏んだ」という主張を出してきました。

www3.nhk.or.jp(2020/12/14)

 

事故原因について、乗用車は10年以上前に購入したとして「経年劣化し、電子部品にトラブルが起きてブレーキが作動しなかった」と、被告には過失がないと訴えた。

 

一方、公判後に記者会見した真菜さんの夫の拓也さん(34)は、パニックに陥りつつもアクセルペダルを踏んでいないのを確認したと、弁護側が主張したことに「そんなことが現実的にできるのか。信ぴょう性があるか疑問だ」と話した。

 

検察側は、事故の約1カ月前の点検で車に異常は確認されず、事故当時もブレーキが踏まれた記録は残っていないと主張している。

(https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20201214/1000057484.html)

 

仮に、飯塚被告の主張が正確で、「ブレーキを目視確認の上、踏んだ」という行動があったとしましょう。

その場合でも、「ブレーキを目視確認した」という話と、「正確に踏んだ」という話がイコールではないのが難点。

前を見ずに・足元を見ながらブレーキを踏んだとなれば、脇見運転になってしまう

足元を見ずに、前を見てブレーキを踏んだとなれば、ブレーキと思ってアクセルを踏んだ可能性を否定できない

 

どちらにしても、ツッコミどころの残る話。

ここに「当時、被告人はパニック状態だった」という話が加われば、より一層被告が不利になりますね。

 

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また、飯塚被告サイドは「経年劣化により、車が故障した。それが事故原因だ」と主張しています。

 

まぁ、世の中に壊れない製品はない。

人工物であれば、いつかは時間の経過で弱り、故障します。

しかし、経年劣化で事故が起こったのであれば、車検をした業者・車検の基準・メーカーの設計等々に問題があったことになります。話がバカでかくなる。 

 

そもそも、経年劣化で痛むことを考慮に入れて、メーカーは車を設計・製造するのです。飯塚被告の車だけが特別ではない。

また、経年劣化による故障を早期に発見し、事故を防ぐ為に車検を行うのです。今のところ、車検担当者がミスしたという話はない。

加えて、事故の目撃者が「ブレーキランプが点灯しておらず、加速していた」と証言しています。

飯塚サイドの立場は、非常に不利。

kuruma-news.jp(2020/12/15)

 

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今回の裁判は、刑事裁判です。

刑事裁判の基本として、「推定無罪」「疑わしきは、被告人の利益に」というルールが存在します。

 

「推定無罪」とは、「確定判決が出るまでは、どんな人も無罪として扱う」というルール。見た目や行動が卑しく粗暴であろうとも、正規の裁判手続きを経て判決が出るまでは、皆無罪。

これは、「冤罪や手続きの不備は、絶対に無くならない」という考えから出てきたものです。いつ・どこで手違いが起こるか分からない為、一律に適用されるルール。飯塚被告も例外ではない。

 

「疑わしきは、被告人の利益に」とは、「根拠が曖昧な証言や証拠について考える時は、被告人が有利になる方向で考えねばならない」というルール。

これも、先程の推定無罪と思考経緯は同じです。

思い込みで冤罪を生んではいけない為、証拠はしっかり吟味する。
吟味が終わった後でなければ、証拠として通用させてはいけない。
判断に困る場合は、冤罪可能性を回避する方向・即ち”被告人に有利な方向”に解釈する。

これが基本原則。飯塚被告も例外ではない。

 

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但し、被告人が不利になる証拠に説得力があり、被告人有利となる証拠が疑わしい場合は、被告人不利の方向へ行きます

これは当然のこと。飯塚被告も例外ではない。

 

飯塚被告が不利になる証拠は、「車のコンピュータに記録された運転データ」「車検の記録」「周囲にいた目撃者の証言」等、いくつも存在します。

逆に、飯塚被告が有利になる証拠は、今のところ「本人の証言」のみ。「故障の可能性」は、現段階で証拠とは言えない。

 

飯塚被告が無罪になる為には、少なくとも
「脇見運転などではなかったこと」
「車検に不正や不備があり、壊れかけの車を渡されたこと」
「そもそも、車の設計に間違いがあったこと」
この点について、説得力のある主張を繰り広げ、裁判官の考えを動かさなければならない。

普通に考えて、相当困難でしょう。筆者が思うに、不可能といって差し支えないレベル。

 

しかし、関係者に「無限の調査時間」を与えるワケにもいかない。

それなりの期間で区切り、締め切りまでに「被告が無罪であるとの、説得力を持つ証拠」が出るか、「検察の出した証拠が、信用に値しない理由」を提出しなければ、飯塚被告が有罪になるでしょう。

今のところ、有罪の可能性が高い。

 

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この裁判に関しては、とにかく「無駄な時間稼ぎを止めて、白黒ハッキリ付ける方向」に行った方がいい。筆者はそう考えます。

 

日本は、高齢化社会。高齢ドライバーが多数存在します。

もしここで、「高齢ドライバーによる殺傷事件は、とにかくゴネた方が得」「時間を引き延ばせば、高齢の被告は寿命で死ぬから、責任の所在は曖昧になる」という見本を示すことになれば、司法の信頼は落ちる。立法府の信頼も、併せて落ちるでしょう。

加えて、いわゆる「上級国民疑惑」も爆発します。社会が混乱し、閉塞する方向に行く。

 

「推定無罪」と「疑わしきは、被告人の利益に」という原則は、守られるべきです。

しかし、ゴネ得の見本を作ってはならない。

この裁判は、今後の日本を左右する裁判かも知れない。それくらい重要なものなのです。

 

 

--------------(記事了)--------------

 

 

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