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【笑ってはいけない話】「美術品修復・失敗騒動」の根底にあるもの

先日、かなり深刻というか、脱力系お笑いネタというか、何とも奇妙なニュースが流れていました。

その内容は、「美術品の修復を失敗した」というもの。

bijutsutecho.com(2020/11/12)

スペイン北西部の都市パレンシアのハイストリートにある銀行のファサードを飾っている女性像が、素人の修復家によって修復不可能なほどのダメージを受けた。

 

「The Art Newspaper」によると、1923年に初めて公開された同作は、かつて家畜の牧歌的な風景の中で微笑む女性が描かれていたもの。

地元の画家アントニオ・グスマン・カペルによるフェイスブックの投稿では、「ポテトヘッド」や「ドナルド・トランプ」「漫画」などという保護活動家や美術愛好家から怒りの声が上がっている。

 

スペインの美術保全協会(ACRE)はツイッターに「プロの修復ではない」と書き込んでおり、パレンシアを拠点とする保存修復家イラノス・アルグドは、「修復は修理ではない。修復は、国際的に承認された基準に従わなければならないし、IPCE(スペイン文化遺産協会)やスペインに存在するほかの認定機関が適用している基準にも従わなければならない」とコメントしている。

https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/23063より。改行等は筆者によるもの)

 

この手の「古美術品を修復しようとしたら、強烈な失敗作が出来上がった」という話。ここ数年で増加しています。

中でも有名なのは、「キリストのフレスコ画(壁画)を素人が修理したら、キリストではなく猿みたいになった」という事件でしょう。

失敗の衝撃度は巨大で、Tシャツのデザインに採用されてしまうレベルに。

www.afpbb.com(2013/8/22)

(クラブティー) ClubT スペイン フレスコ画 偉大なる修復~善意が生んだ悲劇~ Tシャツ Pure Color Print(シルバーグレー) M シルバーグレー(提供:Amazon)

 

ただ、皮肉と言いますか怪我の功名と言いますか…。

失敗作の酷さが逆にウケてしまい、上記Tシャツを始めとするグッズのデザインに採用。そして、これらがバカ売れ。「自分の目で見てみよう」と考え、失敗作が展示してある現地に飛ぶ人も続出。

失敗作を作った80代の老人が、多額の著作権収入を得るという事態になりました。

世の中は、色々分からないものです。

 

ただ、失敗作の作者は、儲けを狙ってやったワケではなく、収入の半分以上は文化財保護活動に寄付。残りも全て自分に使うのではなく、「何かしらの形で他者の役に立てたい」と考えたそうで。

腹の底から「悪いことをした」と反省していらっしゃるのでしょう。

 

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この手の「古美術の修復失敗が増加している」という話。

失敗作を見ただけでは、”強烈なジョーク”以外の受け取り方が不可能。

やらかした人が罪に問われたという話も無く、お笑いネタにしかならない。

 

ですが、その背景をジックリ考えると、なかなかに笑えない裏事情が見えてきます。

スペインの美術保全協会(ACRE)からの発表によれば…。 

スペインには現在、専門家以外が芸術作品を修復することを禁止する法律はないという。

こうした事件がよく発生する原因について、ACREは今年7月に発表した声明文でこう指摘している。

 

「保全・修復の専門家は近年、仕事に恵まれず、海外へ拠点を移したり廃業したりせざるを得なくなっている。

その結果、この分野のビジネス構造は現在、弱体化しており、今日我々が経験している悲惨な危機によってさらに悪化している。

保全・修復の専門職は脆弱であり、スペイン全土で消滅する深刻なリスクにさらされている」。

https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/23063

 

要は、「古美術の修復は儲からない為、どんどん人材が失われている」ということ。

結局はカネ。

そういう裏事情を考えると、笑うに笑えなくなります。

 

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目先の金にこだわって、他の物を粗末にする。

そういう動きを貫けば、どんどん矛盾や汚れが溜まり、いつかは顕在化する。

顕在化したものは、「なぜこんな酷いことに?」「誰か気付かなかったのか?」と目を疑いたくなるものである。

…拝金主義にありがちな流れです。今回挙げた「美術品修復騒動」の根底にあるのも、こういった悪い流れでしょう。

 

この悪しき流れは、美術品に限ったことではありません。

先々のことまで考えるべきなのに考えず、目先の小銭のみを追求した結果、後で何億倍もの損害になって返ってきた…という話は多い。

 

例えば…

「カネになる学問しか必要ないとして補助金を減らしたら、ノーベル賞受賞者が激減した」

「人件費削減だけを考えて非正規雇用を促進したら、国民の購買力が落ちて経済が停滞し、ますます苦しくなった」

…等々。

そう考えると、美術品修復騒動を笑えなくなってきます。

 

 

今回の騒動を、単なる笑い話で終わらせるか。

それとも、自らへの警告として捉えるか。

どちらを選ぶかは、その方次第。

 

 

--------------(記事了)--------------

 

 

 

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