創作モノの分類で、「異世界転生もの」「転生チートもの」と呼ばれるジャンルがあります。
これは、「人間社会では、平凡以下」である主人公が、魔法や超能力といった不思議な力により、別世界に呼び寄せられたり、別の時間軸に飛ばされたりする話。
飛ばされた先の世界には、主人公と同じ人間か、人間そっくりの亜人(デミヒューマン)が暮らしています。
その住人たちの能力は、めちゃくちゃお粗末。飛ばされてきた主人公の足元にも及ばない弱者ばかり。そんな世界で、平凡な力しか持っていないハズの主人公が無双する…というパターンの作品。それがここでいう「異世界転生もの」「転生チートもの」です。
主人公は、努力して力を付けたワケでもなく、たまたま周囲の能力が低かった為に、異世界でやりたい放題。王様になったり、ハーレムを作ったり、とにかく酒池肉林。
この姿をして、「俺TUEEEEE!(オレ強ええええ!)もの」と呼称される場合もアリ。
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この手のチートものは、多くが「剣と魔法のファンタジー」系列の作品で、軟派です。
が、非ファンタジー世界を舞台にした作品で、硬派なモノも結構あります。当記事では、そのひとつをご紹介します。
作品のタイトルは、『紺碧の艦隊』(こんぺきのかんたい)です。
(著:荒巻義雄/徳間書店)
『紺碧の艦隊』は、元々は1990年代に出版された小説でした。
そこから人気に火がつき、漫画・アニメ・ゲーム等の多方面に展開。
小説だけでも全21巻。オリジナルアニメは全32巻。同じ時系列を別方向から描いた派生シリーズ『旭日の艦隊』は…と数えていけば、関連する書籍・映像作品の数は100を超えます。
同ジャンルの作品中では、最もヒットした部類でしょう。
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『紺碧の艦隊』の舞台となるのは、第二次世界大戦の時代。
昭和18年(1943年)のブーゲンビル島から、物語は始まります。
昭和18年4月18日。
連合艦隊司令長官「山本五十六(やまもと・いそろく)」が、前線視察の為に飛行機で移動していたところ、ブーゲンビル島上空で敵の戦闘機に発見され撃墜。山本長官は、戦死しました。
これは、史実の通り。
しかし、『紺碧の艦隊』ワールドでは、山本長官の人生がそこで終わらなかった。ここから、長官の「転生後の人生」が始まります。
劇中では「後世(ごぜ)」と呼ばれるパラレルワールドが、物語の舞台です。
(著:半藤一利/平凡社)
『紺碧の艦隊』の物語冒頭をザックリ説明すると、以下の通り。
▼どういう理由か不明だが、ブーゲンビル島で死んだハズの山本長官は、気が付くと38年前(1905年・明治38年)に転生していた。
▼当時は、日露戦争・日本海海戦の最中。軍艦の上で気が付いた山本長官は、自分が戦死するまでの時系列をハッキリ覚えている。日本は、ロシア・バルチック艦隊を壊滅させることも知っているし、やがてアメリカと戦争になることも知っている。
▼ただ、転生前の記憶と違う部分もある。
▼例えば、養子縁組で「山本」姓になるハズだったのに、そうはならずに旧姓の「高野五十六」のままであること。
▼例えば、日本海海戦で大怪我を負うはずなのに、無傷で終わったこと。
▼転生前の世界とほぼ同じに見えるが、違う部分もある。どうやら、この後世では「前世とは異なる道を進むことが可能」であるらしい。
▼日本海海戦から、約30年後。「山本」改め「高野五十六」は、出世して海軍次官になっていた。
▼時に、昭和ではなく「照和」14年。前世と同じく、対米開戦論調が高まる日本。このままでは前世と同じ道を辿り、日本は大打撃を受ける。
▼前世の記憶を持つ高野五十六は、「何とかせねば…」と、内心焦っていた。
▼しかし、いくら海軍次官とはいえ、高野ひとりでやれることは少ない。そこで高野が頼りにしたのは、「紺碧会」という会合。そこに参加している者は、高野と同じ転生者である。
▼紺碧会の面々は「これから日本がどうなるか」を知っている。故に、何とかして歴史の流れを変えようと躍起になっているのだ。
▼やがて、高野を始めとする転生者達は、重大な決断を下す。それは、秘密裏に軍部を動かしてクーデターを起こし、首都を制圧。開戦強硬派を政権から引きずり下ろし、転生者を中心とした新政権を樹立させることであった…。
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冒頭でも述べましたが、『紺碧の艦隊』は「転生チートもの」「俺TUEEEEE!」のジャンルに分類されます。
史実では日本軍がボロ負けする場面でも、チートで大逆転。アメリカを始めとする敵国を、ボコボコにする話が多い。
が、基本設定や話の流れは硬派。
魔法や超能力の類は、転生に関わる部分だけ。他の部分は、基本的に史実を下敷きにしており、かなりリアルです。
ただし、転生者は「これから何が起きるか」という情報を多数保持しています。これが巨大なチート要素になります。
前世での失敗を繰り返さない様に、相手の五歩も六歩も先を行く日本政府と日本軍。その姿が、何とも痛快。
「俺TUEEEEE!」が好きな方は勿論、「戦国時代」や「ミリタリー」が好きな方にも気に入って頂けるでしょう。
興味のある方は、この機会に是非ご覧くださいませ。
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(紺碧の艦隊)
(旭日の艦隊)