本日は、とある有名モノクロ映画の話をば。
この作品は、「筆者の周囲では、評価がバッサリ二分される」という代物。中身が濃く、議論を呼ぶ作品です。
タイトルは、『博士の異常な愛情~または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』です。
『博士の異常な愛情~または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(以下『博士の異常な愛情』と表記)は、1963年の映画作品。今から60年近く前の作品になります。
監督は、あの有名な「スタンリー・キューブリック」氏。『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』等、有名映画を多数制作した大監督です。読者様も、一度は耳にしたことのある名前では?
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『博士の異常な愛情』は、米ソ冷戦下のド真ん中の時代に公開された作品。テーマは「核戦争」です。
当時は、東西陣営で核開発競争・核実験が頻繁に行われていました。ガチの核戦争になりかけた「キューバ危機」という大事件が発生した時期でもある。現在に比べ、核戦争の脅威は「強烈に現実的なもの」でした。
その時期に発表された『博士の異常な愛情』。さぞハラハラ・ドキドキする映画なのだろう…と思いきや、そうではなかった。
『博士の異常な愛情』のジャンルは、ブラックコメディです。チャップリン作品に近い雰囲気。
キューブリック氏が、「核開発? アホか! これほど馬鹿馬鹿しい競争はない(笑)」と言いながら作った。そういう臭いが強い作風になっています。
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『博士の異常な愛情』の簡単な粗筋は、以下の通り。
▼舞台は、製作当時(1960年代)から見た、近未来のアメリカ。
▼ある日のこと。アメリカの空軍基地で、緊急命令が発令される。その内容は、「ソ連(現在のロシア)の基地を、核攻撃せよ」というもの。
▼基地司令官によれば、「もう既に、ソ連からの攻撃が始まっている」「軍司令部がやられた」とのこと。
▼この様な緊急事態が起こった場合を想定し、アメリカ軍内では作戦が立案済みであった。その内容は、「敵の攻撃を受け、正常な命令系統が断たれてしまった場合、各基地が独自の判断で反撃してもよい」というもの。
▼その作戦に従い、基地司令官はソ連への報復攻撃を開始。「核爆弾を積んだ爆撃機を、ソ連領土に派遣しろ!」との命令を出した。
▼しかし、どうも様子がおかしい。
▼もしソ連からの攻撃があれば、マスコミが黙ってはいないハズ。ところが、ラジオから流れてくるのは、ニュース速報ではなく通常番組。緊急事態が発生しているとは思えない。
▼加えて、基地司令官の様子もおかしい。司令はオカルト論者の様な言動を取り、部下は「この人、正気なのか?」との疑念を抱く。
▼そうこうしている間にも、時間は刻々と過ぎていく。司令を止める権限を持つ者がいない空軍基地。攻撃準備は着々と進んでいき…。
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『博士の異常な愛情』の大きな特徴は、「登場人物が、変人か小物しかいない」という点です。
基地司令官の言動には、不気味で意味不明なものが増える一方。その異様さに気付いた部下も、止める根性がない。その他の関係者も、オロオロするばかり。
「志を持った政治家」「気骨のある武人」「良心を持った科学者」といった登場人物が、どうも見当たらない。
核兵器と開戦権限。どちらも人類を破滅させかねない、恐ろしいものです。
しかし、それを扱う者が、揃いも揃って駄目な連中ばかり。
こういった点が、「ブラックコメディ」と評価される要素であり、「キューブリック氏の皮肉」が効いているところでもある。筆者はそう考えます。
ただ、冒頭で申し上げた通り、『博士の異常な愛情』に対する筆者周囲の評価は・バッサリ二分されています。見る人を選ぶ映画かも知れない。
思うに、『世にも奇妙な物語』が好きな方には、割とウケるのではないか?…と。
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