~今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」より~
本日は、今週のお題に因んだ、とある漫画作品の話をば。
物凄く渋く・カッコイイ御老体が活躍する作品です。
その漫画作品のタイトルは、『キングダム』。古代中国の史実を基にした、群雄割拠の物語です。ご存じの方も多いハズ。
(著:原泰久/集英社)
『キングダム』の主人公は、「信」という下僕(奴隷)の少年。
彼は、古代中国の国家「秦」で下働き生活を送っていました。しかし、「いつか戦場で手柄を立て、天下無双の大将軍になる」との夢を持ち続け、やがてそれを叶えていきます。
『キングダム』は、信の成り上がりを描く作品なのです。
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『キングダム』は、戦国乱世もの。大小様々な人物が登場しています。
魅力的なキャラが、老若男女を問わず、百人以上出演。
まさに大河ドラマ。
youngjump.jp(2020/9/19閲覧)
「老若男女を問わない」
これはつまり、結構元気…というか、「その辺の若者より数千倍元気な御老体」が登場し、物語の核を担う場面が多いということ。
元気な御老体の大半は、ガチの武闘派。
60~70歳代のお爺様が、「一撃で敵兵を数十人吹っ飛ばす」という光景は日常茶飯事。
そんな”血気盛んな御老体”が活躍する中、異彩を放つ御仁がいます。
その人物とは、秦の重臣である「蔡沢(さいたく)」です。
(上画像:左奥の白い着物を着た老人が「蔡沢」。中央の赤い着物を着た若い男性が、後の始皇帝である「嬴政(えいせい)」。右奥の青い着物を着た中年男性が、嬴政の側近「昌文君(しょうぶんくん)」)
この蔡沢。またの名を「剛成君(ごうせいくん)」といいます。かなり強そうな名前。
しかし、名前のイメージとは違い、武術の素養は無し。全く駄目。武器を持った状態ではなく、杖を持っている姿しか見ません。
蔡沢の武器は、「知性」と「交渉術」です。
『キングダム』に登場するキャラは、大きく「武官」と「文官」に分かれます。武官は戦闘や指揮に長けた者、文官は統治や交渉に長けた者です。
(偶に、武官と文官のハイブリッドキャラが登場しますが、そんなに多くない)
蔡沢は、ガチガチの文官。
物語中で最年長クラスの現役文官で、かつては丞相(総理大臣みたいな役職)を務めたこともあり。その経験を買われ、丞相退任後は外交官として活躍。他国との交渉に当たっていました。
その類まれなる知性と交渉術が、秦を救ったことがあります。少なくとも二度。
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(※ここからは、多少のネタバレを含みますので、承知の上で読み進めてください)
蔡沢が、「相手と剣を交える前に、交渉だけで戦局を変え、秦を援護」という離れ業を成し遂げたことがあります。
それは、コミックス25巻と45巻に収録されているエピソードです。
コミックス25巻で描かれるのは、『キングダム』における秦国最大の危機「合従軍編」です。
「秦vs他全ての国」という絶望的状況に追い込まれ、どうあがいても滅亡しかない…と誰もがそう思った時、強烈な成果を出したのが蔡沢。
蔡沢は、秦に攻め込もうとしている国の一つ「斉」の王様に直談判。その結果、秦への出兵を止め、僅かな光明を生み出しました。
もし蔡沢の交渉が失敗すれば、恐らく秦は滅亡していたでしょう。
そしてもうひとつ。コミックス45巻で描かれるのは、蔡沢が「秦王と斉王の直接会談」と「秦の宿敵・趙の宰相との会談」を設定した話。
これにより、中華のパワーバランスが大きく変わり、秦の中華統一が大きく前進しました。
蔡沢がもたらした、大きな功績です。
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蔡沢の存在は、常人離れした体力を誇る人物だらけの『キングダム』内で、最も現実的で理想的な人物像に見えます。
年齢からくる体力の衰えは、隠すべくもない。
しかし、頭脳は衰えを知らないどころか、他の誰にも真似できない高みにいる。
表に出す感情は穏やかであり、あからさまに相手を恫喝することはない。
理論と経験に裏打ちされた弁舌で、相手を説得してしまう。
…まさに傑物。
蔡沢は、派手なキャラではありません。しかし、『キングダム』中でも指折りの奥が深いキャラ。
地味なのに印象に残る、小柄な御老体。これもひとつの理想像なのでしょう。
~~~(余談)~~~
『キングダム』の最新刊である第59巻が、つい先日発売されました。筆者は単行本派。読むのが楽しみです。なお、電子版は10月発売予定。
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