年末年始を騒がせた、カルロス・ゴーン被告の逃亡事件。
その続報が入ってきました。
2020年1月8日、日本時間の午後10時ごろ。
中東・レバノンに逃亡したゴーン被告が、初めて公の場に姿を現しました。そして、各国の記者を前に、自分の言葉で演説を始めたのです。
演説の内容は、大きく分けて「自身の潔白を主張」と「日本司法への批判」の二つ。
www.afpbb.com(2020/1/8)
この会見に対し、日本側も即時の対応を見せます。
ゴーン被告の会見が終わってすぐに、法務省トップの森法相が会見を開きました。真夜中に、法務省絡みの会見が開催されるのは異例のこと。
森法相の主張は、シンプルです。
「日本の法律で容疑をかけられたのであるから、日本の裁判で白黒つければいい」
www.afpbb.com(2020/1/5)
完全に「法務省サイドvsゴーン被告サイドの情報戦」となっています。
今のところ、レバノンにいるゴーン被告を拘束できない状況である為、情報戦が続くことになるでしょう。
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筆者は、AbemaTVの中継を見ていました。
ゴーン被告が、「いろいろ暴露する」と予告していたこともあり、新情報を期待していたのですが…。
正直言って、期待外れの会見。
ゴーン被告は、自分の潔白を熱く主張していましたが、その裏付けとなる情報や証拠の提示が無く、「でっちあげ」「嘘」の連発で終わり。
デタラメに関与した者の名を出す!…と息巻いていたわりに、出てきた名前は「ゴーン被告逮捕の後に、代表に就任した西川氏」など、既に日本で報道されている面々ばかり。
日本政府にも関与者がいる!…としていましたが、「レバノン政府に気を遣って、ここでは言わない」というオチ。
かけられた容疑「報酬を低く記載したこと」「個人的な投資の損失を日産に押し付けたこと」などに関する、具体的かつ詳細な反論も出ず。
とりあえず分かったのは、「ゴーン被告はレバノンにいて、大勢の前で演説できる体力がある」ということくらいです。
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最も期待外れだったのは、「逃亡の具体的経緯や方法を、ほとんど言わなかったこと」です。
www.nikkei.com(2020/1/8)
正確に言えば、「言わなかったのではなく、言えなかった」ですね。その理由は、「逃亡だけを見れば、明らかな犯罪行為であるから」でしょう。
自分の正当性を訴える場において、犯罪者の側面を見せるのは都合が悪い。その為、触れるのは必要最小限にした。
逃亡に関しては、元グリーンベレーの人間が関与しているとも報じられていますし、脅迫や強要もあったというニュースが報じられています。トルコでは、逮捕者も出ています。
www.sankei.com(2020/1/5)
www.jiji.com(2020/1/4)
逃亡の話をすれば、説明に窮するのは目に見えています。「自分が逃げる為に、他人を脅したのか?」との質問が記者から飛んでくれば、ゴーン被告は「自分は潔白だ」とは言えない。
加えて、「逮捕された連中は嘘つきだ」とか「逮捕したトルコは無法者だ」とでも言えば、更に敵を増やします。
その為、逃亡については曖昧な話で止めておくか、それとも触れないかの対応をしなければならない。何とも苦しい話題です。
この様な流れで、ゴーン被告の会見は「イマイチ不発」で終わった感があります。
新たな証拠も出ず・明らかな犯罪行為にも詳しく触れず、何とも消化不良に終わりました。
次の会見がどうなるか、そもそも開かれるのかどうか、その辺りの話は出てきていない模様ですが、今回の会見だけでは甚だ不十分。次の動きがあるでしょう。
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最後に。
ゴーン被告に対する包囲網は、日本から張られたものだけではありません。
逃亡先のレバノンからも、別方面で追いつめられそうな流れがあります。
それは、レバノンの法律で規定された「イスラエル入国罪」です。
www.yomiuri.co.jp(2020/1/4)
レバノンの法律では、「敵対するイスラエルに入国すれば罪になる」という規定があります。
ゴーン被告は、2008年にイスラエル国内で開かれたイベントに参加したことがあり、証拠映像がハッキリ残っています。
この件でレバノン当局から訴追され、もし有罪になれば、最長15年の禁錮刑が課される可能性もあり。
レバノンは、日本以上に腐敗や経済危機が進み、破壊活動を伴う大規模デモが起こる国です。
特権階級の見本の様なゴーン被告が、イスラエル入国罪をウヤムヤにしたとなれば、どうなることか?
何も起きない…ということにはならないでしょう。
www.bloomberg.co.jp(2020/1/2)
後日、「日本で裁判を続けていたほうがマシだった」というオチもあり得る。
まだまだ先は分かりませんね。
「日本の司法批判どころではない」という状況にならなければいいのですが。
--------------(記事了)--------------
【参考書籍 書店リンク】
『カリスマ失墜 ゴーン帝国の20年』
【Book Live!】(試し読みアリ)
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(2019/1/9 19:00 追記)
昨夜、法務省トップの森法相が会見を開きました。
その会見の中で、「無罪を証明すべき」との発言があり、法曹界を始め各方面で問題視されました。
www.bengo4.com(2020/1/9)
www.bengo4.com(2020/1/9)
本来、裁判の場では「検察官が、起訴内容を証明する」という作業が行われるもの。
原則として、被告サイドは「検察官の主張に嘘や矛盾がないか」を言うだけで足り、自らの無罪を証明する作業を強いられるものではありません。
(まぁ、実際は被告側にも「検証や証拠集めの手間」が発生するので、検察官の主張に反応するだけでは足りないんですが…)
その点をツッ込まれると、森法相は「”証明”と”主張”を言い間違えた」として謝罪。
会見のコメントを文章化して記者に配布していたのですが、その文章には「主張」と書いてあったそうで。
森法相は、頭に血が上っていたのでしょうか。
ただ、本文内でも述べましたが、現在の状況は「法務省サイドvsゴーン被告サイドの情報戦」になっています。
情報戦では、言い間違いを外部から指摘されて直すというのも、マイナスポイントとして数えられてしまう。
今回は、早めに謝罪・訂正したからまだマシですが、この発言をゴーン被告側が拾い、攻撃材料として使ってくる可能性があります。
情報戦とは、「雑誌やネットでの意見主張」ではなく、「言論闘争」のレベル。
油断は命取りです。