先日、ちょっとした炎上騒ぎがありました。
騒ぎの中心にあったのは、厚生労働省が発注した「人生会議の啓発ポスター」です。
www.sankei.com(2019/11/26)
厚生労働省は26日、終末期にどのような医療やケアを受けるか事前に家族や医師と話し合っておくよう啓発するポスターについて、患者団体の抗議文など批判を受けて同日予定していた自治体への発送を中止した。
(https://www.sankei.com/life/news/191126/lif1911260043-n1.htmlより。改行・強調等は筆者によるもの。以下同)
このポスターは、「終末期医療」とか「ターミナルケア」とか「アドバンス・ケア・プランニング」等と呼ばれるものについて、人々に考えて貰うことを目的に作成されています。
人は、いずれ死にます。
人生会議とは、余命宣告されるレベルになる前に、
「残された時間を、どうやって過ごして貰うのか」
「どうやったら患者さんを快適にできるのか」
「患者さんの意思表示能力が低下する前に、できることはないか」
等をあらかじめ考えて貰うこと…がテーマの話。患者さん本人だけでなく、家族や医療関係者をも巻き込んで行うものです。
「もう助からない」となってから慌てても、出来ることは少ない場合があります。そうなる前に、いろいろと話をしてください…と促す。
そういう提案が、当該ポスターを通して宣伝される見込みでした。
------------------------------------------
人は、いずれ死ぬ。
それは分かっているとはいえ、「元気なうちから、死ぬ時の準備話? 縁起でもない!」と反発する方は少なくない。
そういう方に対して、「少しでも考えを変えて貰えれば」との想いを込めて生まれたポスターである。
…こう考えれば、納得できる部分は大きいでしょう。
しかし、実際には炎上騒ぎになり、ポスターは配布前にお蔵入りとなりました。
何故か?
ポスターでは、お笑い芸人の小籔千豊さんが病院のベッドに横たわり、「大事なこと何にも伝えてなかったわ」などと家族との事前の話し合いが不十分だったことを冗談を交えて嘆いている。
インターネット上で
「治療をしている患者のことを考えたのか」
「何でも面白くすればいいという感じがする」
といった書き込みが相次いだ。
「なぜ抗議されるのか。自分には“刺さる”ポスターだ」と好意的に受け止める声もあった。
(https://www.sankei.com/life/news/191126/lif1911260043-n1.html)
このポスターの制作を担当したのは、あの「吉本興業」です。
吉本は、お笑いエンタメの会社。その為、どうしても笑いの要素が入るポスターになってしまった。
しかし、先ほども述べたとおり、「元気なうちから、死ぬ時の準備話? 縁起でもない!」と反発する方はいます。
また、今まさに終末期を迎えている人や、その家族にとってはセンシティブな話。それをお笑い会社が担当するとなれば、気を悪くする人がいても仕方ない。
加えて、今年は吉本絡みの騒ぎが多発。いわゆる”闇営業騒動”を通して、
「吉本興業はタレントを脅す会社」
との評判がアチコチで噴出する事態になりました。そのイメージもあって、今回の炎上が起こったことは否めません。
------------------------------------------
吉本の悪いイメージに加えて、ポスターのモデルになった小籔氏の芸風も、今回は悪い方向に働いたと考えます。
小籔氏は、ボケよりもツッコミやダメ出しで喋る仕事が多い。「説教キャラ」として出演されている機会をよく見ます。
www.mbs.jp(2019/12/3閲覧)
今回のポスターも、感動・悲哀というよりも、ボヤキ・説教のイメージが強いものになっていたことは否めないでしょう。
先にも述べましたが、いわゆる「人生会議」は、人の生死が関わる問題です。センシティブで扱いの難しい話。そこに説教イメージが加われば、世間から反発が起きても不思議ではない。
------------------------------------------
ただ、ここでちょっと注意しておきたいのは、
「小籔氏は、芸風は説教臭いかも知れないが、バックグラウンドには説得力を持つ方である」
ということ。
今回のポスターで取り上げられたテーマは、「患者の死をどう迎えるのか」「周囲の者はどうするか」というものです。
そうなると、小籔氏は適任者と言えなくもない。
何故ならば、割と早い時期に、母親を亡くされているから。
「人生会議」の普及・啓発ポスターをめぐる騒動について、患者役で写っているタレント小籔千豊(46)が29日、大阪市内で、MBSテレビ「ミント!」(月~金曜、午後3時49分=関西ローカル)に生出演し、依頼を引き受けたことが「あつかましかった」と自責の思いを繰り返した。
小籔は同番組の金曜レギュラーで、この日、自身が起用された厚生労働省のポスターをめぐるトラブルについて言及した。
「人生会議」とは、事前に家族と終末医療、ケアについて話し合う重要性を伝えるもので、駆け出し時代に母親を悪性リンパ腫で亡くした小籔は、その意義に共鳴したとみられる。
小籔は以前、母が最後に語った言葉は「プリンが食べたい」だったと明かしており、急いで母の好物を買いに走ったが、結局、食することはなかった思い出を話したことがある。
この経験から、小籔は08年にCD「プリン」を発売している。
終末期の家族の寄り添いを誰よりも重要視し、後輩にも「親は明日死ぬかもしれん」と、親孝行をするよう勧めてきた経緯もある。
それだけに、今回の騒動に心を痛めており「本当に申し訳ない。僕じゃなかったら…」とも発言。
(https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201911290000664.html)
小籔氏は、騒がせたことに対し、素直に謝罪しています。
恐らく、小籔氏は「使われる側」であり、全てを指揮管理する人ではなかったでしょう。しかし、矢面に立って謝罪しています。
その姿勢が、炎上を小さめに抑えたのでしょう。先の吉本騒動に比べ、鎮火が早い。
真に前に出るべきは、「広告制作の責任者」と「仕事を依頼し・ポスターを確認したはずなのに・配布を中止した厚生労働省の担当者」です。
何処へ行った?
------------------------------------------
広告に対する、世間の目は厳しくなる一方です。
特に、医療や命に関する広告は要注意。
そもそも、取り扱い注意の繊細な話です。受け取る側も、心穏やかな人ばかりではありません。
また、脅し・説教・強制などを臭わせる表現もNG。
まあ、これは医療関係の広告に限ったことではありませんが…。
(イメージ画像 https://www.sozaiyakoaki.com/kyuukyuusha.htmll)
今回の「人生会議」広告に関しては、話題になったということで、一定の宣伝効果はあったと思われます。
しかし、こういう炎上広告を出せば、この次から苦労します。
何故ならば…
懲りずに不用意な表現を繰り返せば、
「また炎上狙いかよ」と世間から白い目で見られ、
広告の内容を見て貰えなくなり、
宣伝効果が激減する
…という駄目ループに入ってしまうからです。
炎上中は、騒ぎになって注目されるかも知れません。
しかし、炎上が収まった後には、灰しか残りません。
信用も、宣伝効果も、良いイメージも、全て灰になってしまいます。
炎上は、一時的に得をしても、長い目で見れば損しかない。
できるだけ避けた方が無難です。
--------------(記事了)--------------
【関連書籍】
『ネット炎上対策の教科書 攻めと守りのSNS活用』
【Book Live!】(試し読みアリ)
【ebook-japan】(試し読みアリ)
【コミックシーモア】(試し読みアリ)