先日、『帰ってきたウルトラマン』について、記事を書かせて頂きました。
『帰ってきたウルトラマン』に登場するウルトラマン(ウルトラマンジャック)は、
◆長らく「初代ウルトラマンの、そっくりさん」的な扱いを受けたり
◆変身の条件が「ガチで死にかける事」だったり
◆敵が「社会的な上下関係」「職場の人間関係」を利用した嫌がらせをしてきたり
…等々、いろいろ不憫な立ち位置にいる方。
しかし、不憫であるということは、裏を返せば「ウルトラマンの行動が、色々な面から制約される」ということでもあります。
この制約という要素は、面白いドラマを作る時に重要なものです。
「制約ゼロで、何でもアリ」になると、ドラマとしての面白さは激減します。
主人公が完全無欠では観客がハラハラしませんし、伏線を張ったり・回収する必要も無くなります。「主人公は無敵」の一言で、何もかも終わってしまうので。
それとは逆に、「主人公には弱点が多い」「これは不可能」「これは難しい」という制約が加われば、話の面白さは膨れ上がります。
なぜなら、「制約や弱点を、どう克服するか?」というテーマが生まれるからです。
超えるべき課題が多ければ多いほど、ドラマは盛り上がるもの。
「どう考えても勝てないのだが、どうやって勝つの?」という観客の疑問に対し、主人公が見事な解決策を出せば、拍手喝采。
また、主人公に弱点が多ければ、観客の共感を得ることになります。観客が主人公に感情移入すれば、面白さは倍増。
以上の理由から、『帰ってきたウルトラマン』には、傑作エピソードが多い。
そんな名エピソードの中から、当記事では2つをピックアップして御紹介します。
エピソードタイトルは、「悪魔と天使の間に…」と「怪獣使いと少年」です。
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「悪魔と天使の間に…」
この話には、ウルトラマンに巨大化変身する主人公「郷秀樹(ごう・ひでき)」の精神面を攻めてくるという、物凄い嫌な敵が出現します。
敵は「ゼラン星人」という宇宙人。
目的は「ウルトラマンの殺害」。
その為の道具として、「プルーマ」という巨大怪獣を所持。プルーマを使ってウルトラマンをおびき寄せ、殺害を画策します。
このゼラン星人ですが、性格が物凄く悪質&陰湿。「現代で同じ事をすれば、SNSで炎上必至」という、クソ汚い手を使います。
ゼラン星人が先ず狙うのは、ウルトラマンではなく郷秀樹。彼に対して、精神攻撃を仕掛けてきます。
その方法は、以下の様なもの。
(1)ゼラン星人は、「地球人の子ども」に変装(擬態)する。
(2)変装時の設定は、「おとなしい子どもで、聾唖者(聴覚障碍者)」というもの。障碍者を装うという、かなり卑劣な方法である。(現在なら、製作そのものにNGが出るレベル)
(3)その姿で、とある娘さんに近付いて仲良くなる。その娘さんの親は、郷秀樹の上司で、地球防衛組織「MAT」の隊長。
(4)娘さんの親のコネを使い、「MATの施設見学」の名目で基地に潜入したゼラン星人。そこで、MATメンバーである郷秀樹に接触。
(5)ゼラン星人の変装設定は、「耳が不自由であり、話せない」というもの。そこで、郷秀樹に対し、テレパシーを使って脅しをかける。
(6)テレパシーは、郷秀樹にしか伝わらない。その為、ゼラン星人を排除しようとする郷秀樹の行動は、傍から見れば「聾唖者をブン殴る、非常識な乱暴者」としか映らない。
(7)周囲から異常者扱いされ、孤立していく郷秀樹。上司も「ウチの娘と仲良くしている子に暴力を振るうとは…郷は、精神的にヤバイのでは?」と疑い始める。
(8)ストレスで弱っていく郷秀樹の姿を見て、ゼラン星人は更に挑発する。
「明日、怪獣を使って街を破壊する。ウルトラマンになって止めてみろよ。できるモンなら!」
(9)挑発を受けた郷秀樹は、迷いながらもウルトラマンに変身し、怪獣を迎撃。
しかし、郷秀樹は気付いていなかった。
ゼラン星人が、執拗に「ウルトラマンに変身しろ」と言い続けたのには、隠された理由があるということに…。
ゼラン星人は、ガチの知能犯です。宇宙人なので、地球の価値観も完全無視。見ていて、物凄くイヤラシイ。
この悪質宇宙人を倒すには、一体どうすればいいか?
オチまで書くとマナー違反なので、そこは伏せますが…肝は「娘をダシにされている隊長の行動」です。
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「怪獣使いと少年」
この話で描かれる敵は、「人間の差別意識」という、かなりハードなもの。
ウルトラマンが「俺、何の為に戦っているんだ?」という疑問を持ってしまう、かなり異質なエピソードです。
この話に登場する宇宙人は「メイツ星人」で、登場怪獣は「ムルチ」。
(上画像:ムルチ)
メイツ星人は、地球侵略を目的にやって来たのではありません。目的は「地球の調査」です。人間に危害を加える気は全く無し。寧ろ、人間を守ろうとする側の存在です。
そのメイツ星人が地球に来た時、全くの偶然で、暴れる怪獣ムルチに遭遇。
メイツ星人には超能力があり、そのパワーでムルチの封じ込めに成功。近隣地域への被害は食い止められます。
が、その後の地球滞在において、メイツ星人は「公害による大気汚染」にやられて健康を害し、瀕死になってしまいます。
余命が見えるレベルで体力が衰え、見た目も醜くなり、宇宙船を操る事もできず、半ばホームレス状態になったメイツ星人。
彼の姿を見て、地域住民(地球人)は酷く警戒。
裏の事情を知らない地域住民は、メイツ星人の外見だけで「こいつは悪人に違いない」と決め付け、迫害します。
メイツ星人の置かれた状況を知っている主人公・郷秀樹は、地域住民の暴徒化を鎮めようと行動するのですが、地域住民のヒステリーは止まらず…
こんな感じの話です。
ある意味、「暮らしぶり」や「見た目」から発生する差別を描く、社会派ドキュメンタリーなのでは?
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『帰ってきたウルトラマン』には、上記の様な「ハード路線」「闇要素満載」のエピソードが多い。
ただ、一応は”子ども向け番組”です。ハードな方向へ行き過ぎたら「ちょっとストップ!」として戻しが入り、子どもにも分かり易い展開へ行く事もしばしば。
何とかバランスを取ろうとした製作サイドの苦労が、アチコチに見え隠れします。
この手のハード路線は、ウルトラシリーズに限らず、特撮番組ではよく見る光景。
子どもの頃は理解不能だった話も、大人になってから見れば、「ああ、そういう意味だったのか」と納得することは多いものです。
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